本の感想「難民調査官」「サイレント・マイノリティ」下村敦史

本の感想「難民調査官」「サイレント・マイノリティ」下村敦史(光文社)

 難民の受け入れの可否を決定する仕事に従事する入管の女性職員が主人公になっている。日本は欧米諸国と比べると難民の受け入れ数が少ないがこれには様々な理由がある。審査が過度に厳しいという指摘がされることもあるようだが、おそらく主要な理由になっているのは、難民が出国する現場から遠いということがあるのだろう。地続きでないことは国外に脱出しようとする人にとっては高いハードルになる。認定人数の多寡はさておいて、難民の認定ルールというのは現状に応じてより適切な方向へと更新されることは必要なのだろう。主人公の調査官は難民申請者と面談して事実に基づく判定をしようとしている。時に申請者の言葉には意図した嘘が含まれていることもあるからだ。

 この2作品は前者がクルド難民を、後者はシリア難民を扱っている。両国でどんな問題があるのか、人々の置かれた状況はどうなっているのかをできる限り的確に情報収集することが必要になる。しかしそれは容易なことではない。たとえ現地の状況を自分の目で見たとしても「一面性」を十分に排除することは叶わないからだ。そういう環境でもこの仕事は誰かが請け負わねばらないことを主人公は自覚している。この小説を読むまでは難民調査官という仕事の実際を想像してみたことはなかった。

 やや読みにくさを感じた点があったのだが、それは中東の人の名前に馴染みがないことだった。何となく似たような名前が複数出てくると混乱してしまった。こういうことにも慣れが必要なのだろうと思う。