本の感想「望み」雫井脩介

本の感想「望み」雫井脩介角川書店

 雫井氏の作品は過去にいくつか読んだ記憶があるが、特に強い印象は残っていなかった。この作品もたまたま手に取ってみたものだ。

 4人家族の平穏な生活にちょっとした綻びが見え始めた。高校生の息子はサッカーが得意で部活動にも打ち込んでいたが、活動中の怪我が原因でサッカーから離れた。すると次第にあまり良好でない交友関係が始まっていった。外泊も多くなり、両親はいよいよ強く指導しようかという矢先に、外泊した息子が家に戻らなくなった。電話もメールも通じなくなり、そうこうしているうちに、地元で高校生が殺される事件が起きた。様々な状況から、息子もなんらかの関与が疑われる。ネット上では様々な真偽の定かでない情報が飛び交い、自宅にはマスコミの取材が殺到する。警察の捜査も始まったが息子の所在は掴めない。果たして息子は殺人に関与しているのか、加害者なのか、もしくは被害者なのか?家族の心中には2つの不幸が想定されている。ひとつは被害者になっている場合で最悪はすでに殺されているということ。もうひとつは加害者になっている場合でそうだとすれば建築デザイナーとして自営している父の仕事も立ち行かなくなるだろうし、名門私立女子高を受験しようと望んでいる娘の進路希望も閉ざされる。はたしてどちらの場合がこの家族の将来の幸せにとってベターなのだろう?これはサイコ・サスペンスの物語でもある。