本の感想「脳を開けても心はなかった」青山由利

本の感想「脳を開けても心はなかった」青山由利(築地書館

 ヒトの意識とはどう定義することができるのかいまだに定見はない。しかしこの極めて難しい問題は以前から様々なアプローチがなされてきている。とりわけ、最近では生成AIの発達からAIが意識を持つことが可能なのかという論議もなされるようになった。様々な分野の学者たちが意識についての研究をしていて分野ごとの縦割りではこの命題は解き明かせないことが分かっている。どのように融合すればいいのか目下のところ試行錯誤の状況らしい。というようなことがこの本のカバーするところだ。著者の青山氏は毎日新聞で科学領域を扱う記者をしていた。最先端科学というのは一般の読者にとっては分かりにくいものだが、青山氏の解説を読むと少なくとも理解の階段を何段か登ったように思えた。そういう経験が何度もあった。解説巧者である。

 この本も内容は難しいのだが、何となく「これはこういうことなのだろう」という感じて解釈できるような印象を持てるところがある。AIが意識を持つかどうかについては

素人考えでは「持たない」と思う。なぜならAIには身体がないからだ。データの集積はどんなに網羅的になったとしても身体性にはリンクしない。だからもしも「AI特有の意識」を出現させることができたとしてもヒトの意識とは別物だろうし、ヒトの意識がAI特有の意識を「意識」として認識できるかどうかも分からない。

 意識の定義の問題はこれから研究が深まっていくに相違ない。定義づけすることにどれだけの意味があるのか、その必要があるのか、この本を読んでも私にはよく分からなかった。