本の感想「美しい世界をめぐる旅」吉村和敏

本の感想「美しい世界をめぐる旅」吉村和敏(フォトセレクトブックス)

 吉村氏の最新の写真集で6月に出版された。今の時代、写真集はなかなか売れない。にもかかわらず、吉村氏は紙媒体である写真集の出版に力を入れている。あとがきに記してあるのだが、「液晶画面で見るデータとしての作品は、パッと見ただけで満足してしまうものだ。しかし、紙としての作品が、長い時間眺めていることができるし、繰り返し見ても飽きることがない」という考えに基づいている。時には赤字覚悟での出版もあり、実際に赤字になってしまうこともあるのだという。何しろ、出版部数が少なくて、大体500部ぐらいのことが多いのだという。出版ビジネスとして仮に利益が出たとしてもそう多額にはならないのは自明である。吉村氏の紙媒体へのこだわりがいかに強いものであるかが分かる。

 吉村氏の写真集はテーマが決まっていて、多くの場合ある地域で撮影した作品がまとめられる。例えば、プリンス・エドワード島だったり、美しい村のシリーズではイタリア、フランス、ベルギーなど国別になっている。この写真集はその点は趣が変わっていて、世界のあちらこちらで撮影した作品がまとめられている。だから、以前の写真集に掲載された作品もいくつか入っている。それにしてもワールド・ワイドである。これまでの写真集には、これほど多くの国々で撮影した作品が入っているものは多分なかったのではないかと思う。いわゆる絶景のみならず、街かどのごく日常的なシーンもあって、世界はこのような風景で成り立っていることが作品から伝わってくる。

 目下、吉村氏はスイスの美しい村の取材中である。円安、海外での物価高、航空運賃の値上がりなどの逆風が強く、海外取材の回数は減らさざるを得なくなっているとのことだ。せめて写真集を購入することで応援したいと思う。