本の感想「黄色い家」川上未映子

本の感想「黄色い家」川上未映子中央公論新社

 物語の語り手は40代の女性である。彼女が高校生(中退した)から20歳過ぎぐらいまでの数年間の暮らしを回想する形で書かれている。黄色は風水では金運をあらわしていて、ストーリーの大きなテーマは「お金」だ。経済的に恵まれない家庭に育ち、学業よりもアルバイトで稼ぐことに重点を置いて過ごしていた。お金を貯めることが他の事よりも優先されていた。しかし貯蓄を全て盗まれてしまった後、実家を離れて暮らしていくことになる。その時から共同生活のパートナーになった自分の母親と同年代の女性とはこの先長い縁が続く。さらに2人の同世代の女性も共同生活に加わるようになり、「黄色い家」には4人が一緒に住むことになった。順調にお金を稼ぐことができるようになり、4人の生活も安定していたのだが、ある事件をきっかけに仕事の場を失ってしまう。主人公は次第に犯罪的な行為でお金を稼ぐようになっていった。ある目的を達成するために必要な金額に達したら、危ない業界からは抜けると決めていたものの、離脱のきっかけをつかめないまま日々が過ぎていく。「お金とはいったい何なのだろう?どれだけ必要なんだろう?」共同生活者もそれぞれに変化していくなかで主人公は自分がどうすればいいのかも分からなくなっていく。

 601頁の長編であるが、中だるみは皆無であった。次々と展開していくシーンから片時も目を離せない。お金と関わらずに生きてくことはできないものの、「お金とは?」という根源的な問いかけをすることは普段なかなかないものだ。考えてもどうにもならない、結論は出ない、という言い訳が頭をよぎると、たちまち思考停止してしまっているのがよくあるパターンだろう。もう1歩先まで考えを広げてみるのも大事なことなのではないか。この作品は2021年7月から2022年10月まで読売新聞に連載した。