本の感想「遠い声、遠い部屋」トルーマン・カポーティ 村上春樹訳

本の感想「遠い声、遠い部屋」トルーマン・カポーティ 村上春樹訳(新潮社)

 2023年に村上春樹氏による新訳が出版された。1948年の作品でカポーティの初めての長編小説。出版当時は賛否が割れたという。

 主人公は13歳の少年で、訳ありで親戚と暮らしていたが、ある時、実の父親から手紙でが届き、同居しようと求められた。遠路はるばる父親の住む街へと赴くが、その屋敷では父親本人と会うことができないままに生活が始まった。なぜ父親と会えないのか説明されない。新しい家庭の人たち、近所の人たちとの交流があり次第にその生活になじんでいく。

 という具合に第1部と第2部は出来事を追っていく普通のストーリー展開であるが、読んでいてあまりしっくりこなかった。時代も国も違うからというだけでなく、特に太いストーリー展開がないように感じた。そして第3部は最終部で短いのだが、ここからは主人公の思考が書かれていく。時間と空間のルールはなくなって作者の思うがままだから、すっきりと分かるような展開ではなくなっている。第2部の最後の家出の結末はどうなったのかもよく分からない。何だか消化不良の読後感となった。再読する気にもなれなかった。