本の感想「夏子の冒険」三島由紀夫

本の感想「夏子の冒険」三島由紀夫(角川文庫)

 タイトル通りの内容で、夏子が数日間の冒険的な旅をする物語。夏子は東京の裕福な家庭の20歳の娘で、多くの男性から結婚を求められていたが、意中の人はいない。ある朝唐突に、函館の修道院に入ると宣言する。子供の頃から言い出したらきかない性格で、家族の反対を押し切って函館へ向かう。母、祖母、叔母の3人がその旅に付き添っていく。1951年の作品で当時の様子が色々と記されるが、上野からは寝台車を利用、東京と函館との通信手段は電報が使われる。旅の途中で夏子はある若者に関心をもち、函館でデートをする。彼は3週間ほどの休暇を取り、クマ撃ちのために支笏湖周辺へ行くところだった。そのクマには因縁がある。その話に心惹かれた夏子は3人の同行者を出し抜いて若者と行動を共にする。母たちはドタバタを演じながら夏子を追跡することになる。ストーリの展開は今でいうライト・ノベル感覚もあって、三島もこういうポップな作品も書いたのだと意外な印象をもった。夏子とクマ撃ちの青年とは次第に距離を詰めていくようでもあるが、他にも若い男女が登場して複雑な絡みを呈する。ラストは意外な風にもとれるし、やっぱりという風でもあり、気ままな夏子の旅が終結となる。