本の感想「アメリカ分断の淵をゆく」国枝すみれ

本の感想「アメリカ分断の淵をゆく」国枝すみれ(毎日新聞出版

 著者の国枝氏は毎日新聞の記者で、以前から署名記事を読んで注目していた。アメリカとメキシコで特派員を経験している。この本はアメリカにおける社会問題になっている9つのトピックをまとめてあり、例えば、麻薬、KKK, 安楽死、温暖化とエスキモー、銃による殺人、などである。取材は徹底的にその当事者へのインタビューだ。何はともあれ、現地へ行く、当事者に会う、という姿勢を貫く。だから、傍目には「かなり危険なのでは?」と感じることもあり、実際にそういうこともあるのだろう。

 銃による被害者が多い地域がある。取材に赴いたのは北カリフォルニアのオークランド。黒人の人口に占める割合が高くて25%ある。取材対象の一人は15歳の少女だった。経験した葬儀が23回あったという。家族や友人たちが殺害されて累積した数が23人。私はとっくに還暦を過ぎた年齢に達しているが、自分が誰かに殺されるかもしれないという具体的な不安を抱いたことは一度もない。オークランドでは事情が異なるようだ。いつ自分が突然命を絶たれるかもしれないと思わずに暮らすことが難しいのだろう。日本で報道される米国の銃器犯罪は学校などでの無差別殺戮だから、散発的な殺人事件については知るすべがない。1件1件の殺人が重なって、年端のいかない子供が23回も葬儀を経験している。そのようなことには想像が及ばない。記者の本分というのは自分の足で現場に行って、自分の目で対象を見ることなのだとつくづく思わされた。