本の感想「楽園の犬」岩井圭也

本の感想「楽園の犬」岩井圭也(角川春樹事務所)

 「楽園」はサイパンのことで「犬」はスパイのこと。戦前のサイパンで諜報活動に従事した男性が主人公になっている。東大を卒業して英語の教員をしていたが、喘息の持病があり職を辞した。病状が回復して再就職先を探すと、南洋庁サイパン支庁庶務係の職を得た。就職には付帯条件があり、海軍少佐の私設諜報員も兼務することになっていた。諜報活動の経験もなく見知らぬ土地での生活には不安があったものの、これ以外の選択肢はなかった。手探りで始めたスパイの仕事は次第に成果を上げる。雇い主の少佐からの信頼も厚くなっていった。とは言え、こういった諜報活動には様々な罠や駆け引きもある。妻子を残してきた主人公は国へ戻る意思を固めたが、海軍はそれを認めなかった。ある事件への関与を疑われて拘束された主人公は決死の脱出を試みる。

 ストーリーにはなかなかのリアリティが感じられた。第4章までテンポよく進み終章にはエピローグとして戦後の横浜である人物が登場する。彼は見知らぬ外国人と面会することになっていた。現れた人物は思いがけないものを届けに来たのだった。