本の感想「沈黙法廷」佐々木譲

本の感想「沈黙法廷」佐々木譲(新潮社)

 警察小説は作者の十八番の分野である。裁判の様子も描かれる。新聞に連載した作品で連載期間が長く14カ月あった。そのせいか展開はいささかスロー過ぎるような印象もあった。読み易さは担保されている。

 事件はある独居老人資産家の殺害事件を追っていく。容疑者として逮捕されたのはフリーで家事代行業を行っている女性。裁判で検察側が持っているのは「状況証拠」しかない。捜査に当たった警察の捜査官の中には、起訴するのは無理筋だろうと考えている者もいた。必ずしも恵まれた生い立ちではない容疑者には公判で明かしたくない過去の様々な事情もあった。

 事件の報道をたまたま知ったある青年がいる。この青年と容疑者とは短期間だが交際していた時期がある。青年はこの女性に思いを寄せつつあったのだが、ある時、突然連絡が途絶えた。その時女性が使っていた氏名が偽名だったことが分かり、青年は裁判を傍聴することを決意した。傍聴に要する長めの休暇を取ることは困難だったので、仕事を辞めた。公判では青年が知る由もなかった事柄が次々と開示されていく。

 ラストはあっけないというか、少し収まりがつかない印象だったが、新聞連載だったのであわてて締めくくったのだろうか。少し書き足して単行本にしてもよかったかもしれない。