本の感想「不意撃ち」辻原登

本の感想「不意撃ち」辻原登河出書房新社

 宮部みゆき氏の書評集で見つけた本で短編5作品を収める。読み始めてすぐに以前に読んだことがあると分かった。ストーリーは思い出さなかったが、断片的な場面を記憶していた。5作品目の「月も隅なきは」が一番よかった。定年退職した男性がふと家出して一人で暮らしてみたいと思う。家庭にも家族にも日々の生活にもとりたてて不満はない。魔が差したかのようにそういう衝動が起こった。「2~3か月旅に出る」と家族に短いメッセージを残してスマートフォンを持たずに出かけた。自宅からあまり遠くない場所に部屋を借りて週に3日アルバイトに行く。他の日は自由に過ごす。こういう生活をしてみたかったのだ。

 作者はストーリーの仕立てが巧みだと思う。5作品とも味わいのある短編だ。