本の感想「私労働小説 ザ・シット・ジョブ」ブレイディみかこ

本の感想「私労働小説 ザ・シット・ジョブ」ブレイディみかこ角川書店

 短編6作品を収める。ブレイディ氏の実体験が元になっているもので、渡英前の福岡でのアルバイト生活のことやら、渡英後に経験した住み込みのナニー(ベビーシッター兼家庭教師のような存在)とか保育所での仕事などが臨場感豊かに描かれる。その中でとりわけ印象深かったのは、英国社会に根付いている「階級」ということ。upperとlowerとの境界は極めてあからさまに存在して、それが何気ない言葉の言い回しやら、日常の行動などによってくっきりと表出される。著者はlowerからupperを見る方向でそのことを敏感に意識化する。英国の労働者階級はいざと言うときには結束力が強いように思われる。著者はそのことに共感を抱く。思えばコロナ禍にあっても英国のkey worker(日本ではエッセンシャル・ワーカーと呼ばれた)は現場労働を担っているという矜持があり、人々はそのことに強く共感していたように見えた。普通の労働者たちが全うな暮らしを営める社会でなければダメというのは洋の東西を問わず当たり前ということだ。