本の感想「インソムニア」辻寛之

 本の感想「インソムニア」辻寛之(光文社)

 作品中では架空の国名にしてあるが、南スダーンへの自衛隊PKO派遣を下敷きにして書かれている。いわゆる駆けつけ警護で出動した部隊が「戦闘」に遭遇して死者が1名を数えた。帰国した部隊の自衛官の中には自殺した者もいた。それぞれの自衛官の証言は完全には一致せず、隠ぺいを指示されていることがうかがわれる。自衛隊病院でメンタルヘルスを担当する医官は戦闘に巻き込まれた自衛官の治療にあたりながら、慎重に証言を聞き出していく。隠されていた出来事は想像をこえるものだった。

 当時、国会の審議で「自衛隊の派遣されているところが非戦闘地域だ」と答弁したのは小泉首相だったと記憶している。そもそもPKOが派遣されるところは平和維持が必要なところなのだから、非戦闘地域が戦闘地域に転換しやすいところ、ということであろう。質問と答えとが見事に空回りしていた。