本の感想「レペゼン母」宇野碧

本の感想「レペゼン母」宇野碧(講談社

 本文中に解説してあるのだが、書名の「レペゼン」とはrepresent(代表)ということで、ヒップホップは元々地元主義の傾向がありその地域を代表するとか地域を背負っているという意味がある。この作品ではおそらく「出しゃばりの」のような意味を重ね合わせていると思われる。

  母親と息子との関係性を微細に描いている。主人公の母親は和歌山県で梅農園を経営していて年齢は60台半ば。結婚後の数年間は夫と一緒に働いていたが、夫は若くして他界してしまう。以来、一人息子を育てながら農園を維持してきた。息子は就学期から駄目人間で、失敗ばかり繰り返している。30歳過ぎた頃に、配偶者を連れて母親のところに戻り農園で働いたものの、長続きせず妻を置いて行方をくらましてしまう。母親と義理の娘とは良好な関係を保ち、農園経営も順調であった。娘は趣味でラッパー活動をしているが、その影響で母親もラッパーに関心を持つようになっていった。娘はラッパーの大会に出ることになり、会場に赴くが体調を崩してステージに立てなくなった。咄嗟の判断で母親が代役を務めると成功した。ラッパーの世界に入り込んでいく中で、ずっと消息が分からなかった息子もラッパー活動をしていることが分かった。

 ある時、息子が大麻所持で逮捕されたという連絡が入る。母親は過去を振り返って息子との関わり方がどうだったのかを真剣に考えるようになっていった。まともに会話することもできない息子と本気で語るためにはラップで勝負する手があるのではないかと思いついた。物語は終始母親の思うことを丁寧に描いていく。しっかりした筋立てで読み易い。著者はこの作品がデビュー作で、経歴を見ると「1983年神戸市出身。放浪生活を経て、現在は和歌山県在住。旅、本、食を愛する。」とあるがちょっと得体が知れない。この作品は逢坂冬馬氏が紹介していたことで知った。逢坂氏が面白いと評価するのはどんなものなのだろうと興味を持った。確かにストーリーとしての面白さには満足した。デビュー作で逢坂氏に評価されるというのは作者としては嬉しいだろうけれど、同時にちょっと恐れ多いような気持にもなるのではないだろうか。