本の感想「納棺夫日記 増補改訂版」青木新門「それからの納棺夫日記」青木新門

本の感想「納棺夫日記 増補改訂版」青木新門(文春文庫) 「それからの納棺夫日記青木新門法蔵館

 前者は映画の「おくりびと」の原案になった作品だが、著者の意向により映画のクレジットにはそのことは示されなかった。

 納棺師として経験した出来事が記される他、仏教では親鸞についてかなり詳しく考察されている。文学作品ではとりわけ宮沢賢治を、さらに宇宙物理学についても論じられている。幅広い内容をふくむが、「生死」についての論考である。「それからの~」の方は前作の内容と重複する部分がかなりあって、補完的な役割になっている。

 現代では死をまじかに見て経験することはとても稀有なことになっている。コロナ禍では家族の死さえ厳重に隔離された。著者は死を身近な体験として知ることが大切だと説く。死後硬直が始まる前の遺体には安らかな表情が宿るという。死は穢れでもなく忌みでもなく、生の後のプロセスだと実感できることはとても大事なのだと。日本のこれからは少子高齢化がいっそう進み、多死社会がやってくる。死についての考えを遠ざけているだけでは私たちの心の深いところは殺伐化していってしまうのだと思わされた。