本の感想「街場の米中論」内田樹

本の感想「街場の米中論」内田樹東洋経済新報社

 書名は米中論だが、アメリカ論は1~7章で、中国論は第8章、第9章が「米中対立の狭間で生きるということ」という構成なってなっている。

 まず、ロシアのウクライナ侵攻についての内田氏の予想は、「一時的な停戦をはさみつつ長期化すると僕は予想しています。それでも、いずれどこかで(1953年から南北朝鮮の間で続いているような)「長い休戦状態」に入るのではないかと思います。どういう形で休戦するにせよ、その時点では、ロシアが世界政治のキープレイヤーではなくなっていることは確かです。経済的にも軍事的にも疲弊し果てており、とりわけ国際社会に対する「倫理的優位性」をほぼまるごと失ってしまった。これは予想外に大きなダメージになると思います。」としている。この見立ては当たっていると思う。問題はいつまで戦争を継続するかということで、停戦は早いほどいい。

 アメリカのコロナ対策についての分析は以下の通り。「感染症を抑え込むには、国民全員が等しく良質の医療を受けられる体制を整備する必要があります。また、ワクチン接種、マスクの着用、集会の自粛などの行動制限を市民に課す必要があります。全市民に、その個人的属性にかかわりなく、「平等」の治療機会を提供すること、公権力が介入して市民的「自由」を制約すること。「平等の実現」と「自由の制約」なしには感染症は効果的に抑制できません。でも、これは多くのアメリカ人にとって受け入れがたい陽性でした」として、次に「リバタリアン」を解説する。「市民の個人的活動に対する公権力の介入を一切否定する人たちです。リバタリアンは自由自立を重んじます。ですから徴兵と納税に反対します」さらに「トランプはリバタリアン」と説明する。つまりトランプが望む社会システムというのは極めて原初的な「社会以前」のような形態なのだということが分かる。「もしトラ」が「またトラ」にならないようにアメリカの人たちには弁えてもらいたい。

 今後の世界で生き延びていくための方法はという考察では「味方の頭数を増やし、敵が過度に攻撃的にならないように抑制を求め、潜在的な敵同士の間には同盟関係ができないようにする」という戦略だとする。「考え方がまったく違う「不愉快な隣人たち」と共生する術を学ばなければならない」とまとめている。確かにそういうことに落ち着くのではないだろうか。