本の感想「不機嫌な英語たち」吉原真里

本の感想「不機嫌な英語たち」吉原真里晶文社

 著者は1968年ニューヨーク生まれ。東京大学卒、米国ブラウン大学博士号取得で現在はハワイ大学の教授を務めている。この本はノンフィクションではないが、主人公は著者自身の名前で登場するし、著者の体験をほとんど下敷きにして書かれたものだろう。

 小学生の時に、父親の仕事に関係で渡米し現地の学校に入る。中学生の時に日本に戻り、私立の学校に入る。日本で大学を出てからは米国へ留学という経過をたどる。その時々にあった色々な出来事を短編にして構成してある。その中に通底するのは英語が自身の生活にどのように関わったのかを分析的に考察している。中学で英語が分からないままに米国の学校に通学した時、だんだん英語が分かるようになっていったときの交友関係、帰国して日本の学校に通った時のこと、米国の大学で学究の経験、アメリカ社会で生活すると出会う様々な階層の英語、などなど。

 本の数か所に英文が小さい文字で記してあるページがある。何だろうと少し読んでみたが何かまとまった意味のあることが書いてあると分かる。字が小さすぎるし分量もけっこうあるので読まなかったのだが、本の最後で正体が分かった。水村美笛氏の「私小説from left to right」の英訳で、著者がこの英訳をしたのである。What I Write About When I Write in Englishがこの本の最初の部分だと思われる。p.379にこの部分が載っていて左綴じの本として読めば、p.23まで繋がっているようだ。