本の感想「星をつなぐ手 桜風堂ものがたり」村山早紀

本の感想「星をつなぐ手 桜風堂ものがたり」村山早紀PHP研究所

 「桜風堂ものがたり」の続編で完結編。前の作品で主人公が働くことになった桜風堂という書店と主な登場人物のその後を描いている。街の書店が次々となくなっていくことがいわばこの物語の中核をなしている。紙の本からデジタルデータへの移行による功罪についてもあらためて考えさせられる。両者にはそれぞれのアドバンテージがあるものだからどちらかだけになることは少なくとも当面はないだろう。街の書店が減少していくことはなかなか止められない現実ではある。書店がなくなれば書店員という専門職もいなくなってしまう。ネットの世界でも様々な人たちが本の情報を提供しているからそういったデジタル・データが書店員の役割の一部を肩代わりできるのかもしれない。しかし、購入者と販売者が人と人として対面する場は失われていく。そのことはやはり社会的な損失だろうと思う。

 主人公を取り巻く状況は必ずしもいつも順調ではないものの、物語は様々な支援や新しいチャンスを示している。現実に廃業しかかっている書店の中にはもしかすると何らかの追い風が吹くこともあるのかもしれない。今日もどこかの書店が営業を終了したのだろう。コロナ対応で観光や飲食の業者には政府から一定の補助があったことを考えれば厳しい条件下で営業を守っている書店への公的な支援があってもよいのではないだろうか。書店へのアクセスがあることも社会の重要インフラのひとつだと思うから。