本の感想「家事か地獄か」稲垣えみ子

「家事か地獄か」稲垣えみ子(マガジンハウス)

 自分の身の回りのことを自分自身でできるスキルは誰にとっても必要なこと。にもかかわらず、そのことを誰かに委託することができるとしたら、それはその人自身の幸せ感や豊かさに貢献するのだろうか?稲垣さんの答えは明確にNOである。世間的にはとても慎ましいと判断される稲垣さんの生活様式は決して満たされないものではないのだと開眼した。それどころかかつて大量消費的な生活をしていた時には、気が付かなかった幸せや喜びを獲得している。稲垣流のミニマムで省エネ的な暮らしは誰にでも真似はできないものの、その意図や実践に少しでも寄り添ってみて、その一部でも真似できることはあるだろうしそうする価値があるのではないか。

 誰でも年を取っていくにつれて今までできていた何かが出来なくなっていく。であるならば、できなくなることに先んじて、できないことをやらないという仕掛けを自ら作っておけばリスク・マネジメントになる。世の中を見ても人口は減っていき経済規模は縮小することが自明である。これからは上手な右肩下がり社会を構築していくのが王道なのだ。そういう不都合な真実を政治家たちは見ないようにしているように思われる。だから、稲垣さんはとりわけ政治家たちに提言している。「自分で家事をやりなさい」と。物価高対策なんかが国会で論議されていても、普段からスーパーで買い物をしたこともなくてトーフ1パック、大根1本の値段も知らない人たちが大部分なのだとしたら、信頼できる政策などできるはずはあるまい。ちなみに、書名の「家事か地獄か」に少し文言を補えば「自分で家事をやりなさい。さもないと地獄をみますよ」ということだろう。