本の感想「介護者D」川﨑秋子

本の感想「介護者D」川﨑秋子(角川書店

 介護者Dとは主人公のことで、A~Dランクの最下層にランクされているということを表す。主人公は介護離職で東京を離れて、札幌の実家に戻った。妻を亡くした後、一人暮らしだった父親は脚の具合が悪くなって、冬季間除雪が出来なくなったという事情だった。主人公には妹がいるが、アメリカの西海岸に住んでいて幼い子供がいる。公的な支援ではまかないきれない部分もあり、父親本人が公的支援に難色を示していた。主人公は父親との二人暮らしを始めるが、父親は生活全般を主人公に依存しきるようになっていく。主人公は父親の我儘に思えることでも基本的には受け入れるようにして、波風をたてないようにすることを優先した。そのため、心理的にはストレスフルになることもある。父親には内緒でケアラーたちの集会に参加して気を紛らわせたりしていた。唯一の楽しみは「推し活」で、女性アイドルグループの一人を熱烈に応援していた。コロナ禍のために、ケアラ―の集会は閉鎖され、アイドル活動にも制限がかかってしまった。父親本人もだんだんと自分ではできなくなることが増えてくるし、父親が溺愛しているペット犬も若年性の認知症が進んでいることが分かった。犬の世話も主人公の負担増となった。主人公は札幌で派遣社員としての仕事を得ていたが、コロナ禍で失職する。将来の見通しに希望を見出せることはなく先のことはできるだけ深刻に考えないようにして、その日しなければならない介助をし続けるしかなかった。

 いつ終わるとも分からない親の介助は重い負担である。この作品は暮らしの具体的な面のみならず、主人公の心理的な面もつぶさに描いていてリアリティを感じることができる。誰もが関わることになり得る状況を設定してあるだけに読みごたえのあるストーリーである。