本の感想「裸の大地第1部 狩りと漂泊」「裸の大地第2部 犬橇事始」角幡唯介

本の感想「裸の大地第1部 狩りと漂泊」「裸の大地第2部 犬橇事始」角幡唯介集英社

 極北の地、グリーンランドで橇を引き自分で地図を作る冒険記。著者の意図はかつて人が地図を持たなかった時代に未踏の地にどうやってルートを開拓していったのかを追体験したいということ。そのためGPS装置は持たない。グリーンランド遠征前には日高山脈で演習をする。地形を読み自分の判断だけで山行した。

 第1部は2018年の第2部は2020年の遠征記録であり、前者はイヌ1頭を連れて小型の橇をイヌと一緒に引いた。できるだけ移動距離を伸ばすためには食料を確保する必要がある。ジャコウウシ、アザラシ、トリやウサギが狩猟の対象で銃を携帯する。獲物がどこにいるかは事前には分からない。運よくジャコウウシを仕留めることができても、解体する手技が必須である。当然のことながら獲物がいる確証はないし、銃弾は獲物に命中するとは限らない。食糧事情は基本的にひっ迫しているので、著者もイヌも遠征日数が進むにつれて体重は減っていき、行動量は限られてくる。

 第2部は、第1部の反省により犬橇を導入した。その方がアザラシ狩りに有利であり、移動距離を延ばせるという目論見があった。橇の自重を含めて約500kgの装備を12頭のイヌで引く。まずイヌを集めることから始めるが、現地の個人と交渉するしか方法はなく、優秀なイヌは誰も手放したくないから交渉は難航した。橇は現地の狩人の助言を得ながら自作し、2シーズンかけてイヌの訓練をする。ヒト引きの橇では届かなかったエリアを目指してさらに北を目指して出発する。

 こういった命を懸けることになる冒険記は多くの場合「記録」が重視されがちだと思うが、角幡氏の場合は味付けが違っている。危機的な場面でも「その状況の記録」よりも「その時どう思ったか」に重点が置かれていて、それが読みどころになっている。危機的な場面でなくてもこの手法は同様である。読みながら「こんなことまでやらなくていいのに」と思いつつも、いくらかはその気持ちが分かるような気もする。