本の感想「動物たちは何をじゃべっているのか?」山極寿一・鈴木俊貴

本の感想「動物たちは何をじゃべっているのか?」山極寿一・鈴木俊貴(集英社

 山際氏と鈴木氏の対談。山際氏は言わずと知れたゴリラ研究の世界的な泰斗。鈴木氏はシジュウカラの鳴き声に意味があり、文法構造もあることを世界で初めて明らかにした気鋭の研究者である。こういう二人の対談だから面白くない筈はない。

 シジュウカラの「ジュリリ」という声は群れをまとめる声で「みんな近くにいてね」を表している。「チュリリリ」だと危険を知らせている。天敵が接近している場合などに使われる。タカが近づいてきたら「ヒヒヒ」、ヘビだと「ジャージャー」と区別もする。「ピーツピ・ヂヂヂヂ」は「ピーツピ」が「警戒しろ」で「ヂヂヂヂ」が「集まれ」となる。この音声を編集して「ヂヂヂヂ・ピーツピ」にするとシジュウカラは反応しない。というようなことを鈴木氏は何年もの間、年間8が月も軽井沢の森に住み込んで観察を続けて解き明かしていった。

 動物はヒトに劣る存在で、高い知性とか複雑な言葉をもたないと考えられてきたのはキリスト教的な人間中心主義の影響があったという。しかし、動物たちにはヒトと異なる世界がある。ヒトの認知する世界はヒト独自のものでしかない。「どういう風に世界を見ているかも、動物に寄って全然違うはずです。人間は赤・青・緑の三原色を基に色を感じていますが、鳥は赤・青・緑に加えて紫外線も近くできますし、GPSみたいに地磁気も感じ取れますから、世界の見え方、感じ方はまったく違うはずです」

 二人の対談は「言葉はどのようにして発達したのか」とか「文字情報の特性や限界」とか「言語依存の功罪」などと広がっていく。動物のコミュニケーションの研究は鈴木氏の発見に大いに弾みがついた。この先、思いがけないような研究成果がどんどん出てくるような気がして楽しみだ。