本の感想「ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら」小池伸介

本の感想「ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら」小池伸介(辰巳出版

 分かり易いタイトルの本で、クマの研修者による主にフィールドワークの実態と研究とが読みやすくまとめられている。昨今、各地で問題になっているクマ被害は、人の生活圏にクマが侵入してくることによって起こっている。これは耕作放棄地などが増えたり、人が住まなくなったエリアが増えてクマの行動圏が人の生活圏にはみ出してきているからだ。クマは主に植物を食べているが、何かの原因でエサ不足になった場合に、人の生活圏に侵入しその行動が常態化していくこともある。これを防ぐためには境界線をしっかりと確保することがカギとなる。

 今年もドングリの不作が伝えられていて、それをエサにするクマにとっては、人里に降りて行きやすいようだ。木の実に不作の年があるのはどうやら植物にビルトインされた仕組みだという。例えば、連続した3年間で結実量が10:5:15となったとすると、10の年は結実量とクマの捕食量が同じだったとする。この状態が毎年続くと植物は子孫を増やすことができない。次の年に結実量が半分になるとクマはある程度餓死する。植物の実はほぼ食べつくされてしまう。さらに次の年に結実量が増加して15になれば1年目よりも個体数が減ったクマにとっての必要量を十分にまかなった上で、余剰分が次の世代として数を増やすことができる。こういった植物側の戦略があるようだ。クマにとってもより飢餓に強い個体の遺伝子を次の世代に繋ぐことができる。

 登山者がクマの被害にあうことがほとんどないのはどういうことかと考えてみると、おそらく、登山道以外のエリアに入らないからだと思われる。クマも登山道には人が通ることを知っているのだろう。登山者とクマとの結界がはっきりしているのだ。