本の感想「緊立ち」乃南アサ

本の感想「緊立ち」乃南アサ文藝春秋

 警察小説。警視庁には特殊な捜査官がいるもので、通称メモリー・アスリートと呼ばれている人たちもそのひとつだ。いわゆる「写真的記憶術」を持っていて、指名手配された容疑者の顔貌、身体的特徴、容疑の内容、氏名などを数百人分記憶している。この小説では4人グループで日々繁華街などを巡回しながら、容疑者を偶然見つけることを仕事としている。人の顔と名前を覚えることが不得手だった自分から見るとそういった異能を持つ人の存在はただ驚くしかない。

 いくつかの事件が物語になっている。ちょうどコロナ禍で多くの人がマスクを着けている状況なのだが、メモリー・アスリートたちは目の辺りだけで人を特定できる。主人公は二人の女性で一人は若手のメモリ・アスリートで、もう一人の主人公は別の部署のベテラン捜査官。若手の方の捜査官は子供の頃にある事件に巻き込まれた経験があり、その時対応した捜査官に憧れの気持ちを抱いて警察官になった。その時の捜査官が今はベテランになった女性捜査官だった。

 僅かな手掛かりから容疑者を追い詰めていく過程を描くのは警察小説の王道だが、この作品でもそれが読みどころになっている。犯罪はしないのが一番ということ。