本の感想「アラブからこんにちは2」ハムダなおこ

本の感想「アラブからこんにちは2」ハムダなおこ(国書刊行社)

 著者は1990年にUAEの男性と結婚してUAEに移住した。30年以上現地での生活体験がある。この本はイスラムの生活文化を具体的な事例をあげて紹介している。こういうジャンルの本を読んだことがなかったのでこれまで知らなかったことが沢山あった。

 例えば死者の埋葬について。「イスラームの葬式はいたって簡単で、スピーディで、費用がかからず、すべての人間が同等です。(中略)遺体は何の模様もない白い布に頭まで包まれ、棺桶はなく死装束はいらず、物品は一つも身につけたり、一緒に入れられることはありません。墓穴は端から順番に掘られていき、目印は砂地に置かれた小石だけ。飾るべき墓石もなく(偶像崇拝の対象になるから)供え物も墓参りもない。(中略)行政機関(病院やモスク)が湯灌し、一枚の布でくるまれ、葬礼用モスクでお祈りをして、地域の決まった埋葬地に端から順に埋葬されます」つまり太古の昔からの生活文化が継承されているといういこと。移動する遊牧民にとってこのやりが最も合理的だった。「亡くなったら何も残らない、この気候では物質的なものは何も残ることが出来ない」という民族の知恵が共有されている。日本でも無縁墓地の問題がいっそう深刻化してきているが、こういった制度を社会保障することは必要になってくる。立花隆氏が自分が亡くなったら墓はいらないと言い残したのも「亡くなったら物体としての遺体は残らないのがよい」と考えたのだと思う。

 また、様々な文化の共存については次のように提言している。「その国の国民がいいと認めている国家の在り方を捨てさせ、国際社会の一員になるには欧米の価値観を順守しろと押し付ける権利はありません。価値観の押し付けは、実は文化社会的な帝国主義と変わらないのです。欧米の価値観が絶対に正しいという前提があり、その基準に満たない国を断罪、排除、強勢変換する姿勢を変えていかなければ、21世紀の世界ではいずれ通用しなくなるでしょう」と。これはもっともな意見だが、問題は残る。欧米由来の価値観とは別に高次なレベルでより普遍的な価値観というものが全くないとは言えないのだろうと思うからだ。単純な言い方では「自然権とか基本的人権」というような人間が生来保障されるべき事柄だ。どこで折り合いをつけるべきなのかは100%の正解はないのだが、武力でそれを解決に導くことができないのは確かなことだ。