本の感想「路上のX」桐野夏生

本の感想「路上のX」桐野夏生朝日新聞出版)

 社会的な弱者が適切な支援にアクセスできずに生活破綻に追い込まれてしまうことがある。この作品の主人公はそういう体験者のひとり。高校1年生の時、両親の事情で親元から離され、父方の叔父の家で生活することになる。叔父の家庭は経済的に厳しく、食事も十分に与えられない。学校にばれないようにラーメン店でアルバイトをしているが十分な稼ぎにはならない。そのうちに渋谷近辺にたむろする同じような境遇の女性たちと知り合うようになる。協力し合ってなんとか生活をよりよくしようとしていくが、なかなか思うようにはいかない。風俗関係の仕事と関わったり、犯罪の被害者にも加害者にもなっていく。公的な支援も利用できず、次第に困窮の度合いを深めていくことになる。こういうプロットはこの作者がよく描くパターンだ。救いようのない展開だが、現実にこういうケースは決して稀ではないのだろう。自己責任といってしまえば、当事者以外の誰にも責任がないことにるからこの言い方を安易に利用してはいけない。主人公が両親から「捨てられた」理由は物語の終わりの方で明らかにされる。主人公には責任のない理由だった。だからこのケースでは主人公が陥っていく苦境を自己責任と断ずることはできない。主人公はどうすればよかったのだろう?NPOで頼れる仕組みがあるだろうか?