本の感想「告白の余白」下村敦史

本の感想「告白の余白」下村敦史(幻冬舎

 高知県で農家を営んでいる家族には双子の兄弟がいる。兄は実家を出て「放浪」していて、家業は両親と弟が営んでいる。兄は全国各地から時々絵葉書を送ってくるが、どこでどうしているのか詳しいことは記していない。その兄が数年ぶりに正月時期に帰省した。農地を生前贈与してほしいと家族に伝えた。その希望が叶うと程なく兄は自宅にある納屋で自死する。遺言には京都にいるある女性が訪ねてきたら、贈与分の土地の権利を彼女に渡して欲しいと記してあった。残された家族にはその意味するところが分からない。弟は京都に行ってその謎を解こうとする。弟は兄の知人に出会った時に兄だと勘違いされてしまった。その成り行きで兄に成りすましたままで、兄が生前親しくしていた女性と出会うことになった。双子で外見はよく似ているとは言え、相手に成りすましだと気付かれずにいることは難しい。気付いていても気付いていないように装っているのではないか、とも思ったりもする。お互いの真意を探り合いながら二人は親密さを保つような付き合いを進める。

 「成りすまし」の設定にはいささか無理があるように思うがストーリーを面白くする効果はあると感じた。京都の伝統文化や独特の人との付き合い方などを織り交ぜて紹介しながら展開していき、兄の秘密に次第に近づいていく。