本の感想「方舟を燃やす」角田光代

本の感想「方舟を燃やす」角田光代(新潮社)

 1967~2022年まで、主人公2人の半生を描く。一人(男性)は1967年の時点で幼稚園に通っていて、もう一人(女性)はその時点で高校生だった。私自身と年齢が近いのは前者の方で同世代と言っていいだろう。様々な出来事、事件、天災などを織り交ぜて現代史をたどりながら二人の人生を追っていく。二人の主人公の家族や関わりのある人々とのエピソードには現実感があり、その当時の社会風景が浮かび上がってくる。男性の主人公は鳥取県の山間の町の出身で、東京の大学へ進学し、卒業後は都の職員になる。女性の主人公は東京の生まれで高校卒業後は製菓会社に就職し、結婚を期に退職し専業主婦となった。昭和の後半から平成を経て令和の初めまでおよそ半世紀余りのごく普通の人たちの人生を反映した物語だ。読みごたえのあるドキュメント・タッチの長編である。