本の感想「Forgive Me, Leonard Peacock」Matthew Quick

本の感想「Forgive Me, Leonard Peacock」Matthew Quick (Little, Brown and Company)

 洋書の注文はもっぱらAmazonを利用するが、この本は中古本で安いものがあった。¥780(送料込み)ぐらいだった。半月ぐらいかかって届いたのだが、中古らしくかなり草臥れた状態だった。オハイオ州から発送されていて、どこかの図書館で破棄処分になったものだと分かった。2013年の出版なのでおよそ10年ぐらい米国の子供たちに繰り返して読まれたものなのだろう。

 主人公はフィラデルフィアに住む高校生で18歳の誕生日の朝を一人で自宅で迎えた。父親はベネズエラかどこかに行ったきりで音信がなく、母親は会社を経営していてニューヨークにいる。そのため主人公は事実上の一人暮らしのような状況にある。隣人に妻を亡くした高齢の男性がいる。主人公とは気が合い、数少ない信頼できる大人だ。しばしば古い映画を一緒に見て楽しんでいる。中でもハンフリー・ボガードの出演作がお気に入りだ。だから、この作品中では「カサブランカ」などからの名セリフが何度も引用される。今時のアメリカの子供たちは見たこともない作品だと思われるが。例えば、こんなセリフは記憶にある。

 ”There never seems to be any troubule brewing around a bar until a woman puts that high heel over the brass rail.  Don't ask me why, but somehow women at bars seem to create troubule among men."

 酒場でなにか揉め事が起こることはない。女が敷居をまたいでくるまでは。理由は分からない。でも女が酒場にいると男たちは何かやっかい事をしでかすものだ」

 

"Where were you last night?"

"That's so long ago, I don't remember."

"Will I see you tonight?"

"I never make plans that far ahead."

「昨夜はどこにいたの?」

「そんな昔のことは覚えていない」

「今夜、会えるかしら?」

「そんなに先のことは約束しない」

 

"Here's looking at you, kid."

「君の瞳に乾杯」(映画史上に残る名訳)

 

"Louis, I think this is the beginning of a beautiful friendship."

 「ルイス、これが新しい友情の始まりだ」

 

 などと出てくるので、また「カサブランカ」を見直したくなる。

 

 ストーリに戻る。誕生日の朝食のテーブルには、ナチス仕様の拳銃が置かれていた。主人公の祖父が戦利品として持ち帰り、所持していたものだ。主人公は同級生のある人物を殺害して、自身も自殺しようと企てている。殺害しようとしている同級生とは幼なじみだが、ある時から主人公をターゲットにしていじめを繰り返すようになっていた。物語は子供時代と学校生活の断片的な回想と、誕生日当日の主人公の行動を追っていく。「未来からの手紙」という章が何度か挿入されるがその謎は物語の中盤以降で明らかにされる。主人公が信頼を寄せる大人はもう一人いて、高校で「ホロコースト」の授業を担当している教員だ。主人公の人物像をまとめると、親しい友人がいない、親からはネグレクトされている、何か打ち込めることがない、大人を信用していない、将来には今よりもさらに希望を持てない。言ってみれば「ローン・ウルフ・テロ」の実行予備軍のようだ。当日の授業でホロコーストの教員は主人公がいつもと違うことに気付いて、自殺しようなんて考えたらその前に必ず自分に電話するようにと伝えて電話番号をメモして渡した。その後、主人公は夜になるのを待ち殺害対象の家へと向かった。

 ラストはどうなるのだろうと読み進んでいくが、ちょっと曖昧さが残る終わり方になっていた。読者の判断に委ねるという手法。最後の章は4通目の「未来からの手紙」で、この内容がひとつの方向づけの役割を果たしている。

 英語は平易で読み易いものの、所詮は外国語だから一日大体60頁ぐらいのペースだった。苦労して読む割には何だか最後がスッキリしなかったような感想をもった。