本の感想「我が産声を聞きに」白石一文

本の感想「我が産声を聞きに」白石一文講談社)2021_07

 結婚して22年の夫妻は安定した経済状況で一人娘も大学に入って実家を離れてからは二人でトラブルのない日常を送っていた。夫がガンの検診を受けたところ初期の肺ガンであることが分かった。夫はそのことを機にして、妻に別居を申し出る。できれば離婚してほしいとも伝えた。夫は高校生の時の同級生とかつて結婚しようとした経緯があった。1年ほど前に偶然にその女性と出会い、すっかり心を惹かれたのだという。これからはその女性と出来るだけ長く一緒の時間を持ちたいのだと。妻は夫からいきなりそういう経緯を聞いて訳が分からなくなった。どうしていいのか妙案もなく、しばらくの間静観していた。そのうちに夫は無事に手術を終えたということを知る。夫は妻と同居することはないと固く決意している。妻は思いもよらない事態にどう対処していくかを模索し始める。

 かなり思い切った設定で始まるストーリーだが、それだけに展開は次々と進んでいって飽きさせない。本書のカバーデザインには岩合光昭氏のネコの写真が使われている。ということはネコが何らかの重要な役割を果たすということでその点も見逃せない。