本の感想「遺体鑑定医加賀谷千夏の解剖リスト」小松亜由美

本の感想「遺体鑑定医加賀谷千夏の解剖リスト」小松亜由美(角川文庫)

 主人公は法理解剖医で若手の実力者。京都を舞台にして司法解剖の現場で活躍している。この本はシリーズの2作目に当たる。1作目は「誰そ彼の殺人」だが、図書館では貸し出し中だったのでこちらを先に読んだ。作者は現役の解剖技官なので、現場の描写やテクニカルな記述にはリアリティがある。実際に解剖の現場を見ることはないので、現場感というのはなかなか想像できないものだ。こういう作品から伝わってくる臨場感は限定的ではあるのだろうが読みごたえはある。映像化されたとしたら直視するのはは難しそうだ。

 司法解剖をテーマにしたエッセイは昔読んだことがあった。「死体は語る」上野正彦(時事通信社)1898年刊や、「法医学教室の午後」西村與一(朝日文庫)1985年刊などである。いずれもシリーズで何巻か発刊された。年号を見ると随分と過去のことだ。当時の状況と比べればこの分野の知見や技術も格段に進歩してきているのだろうと思う。

 遺体から分かることは多くあるもので、作品を読むとこういうことまで科学的に結論できるものかと驚かされる。主人公は中学生の時に両親を亡くしている。自宅の寝室で何者かによって殺害された。おそらく、そのことが原因で法医学への道を選んだものだろう。シリーズの1作目にはその辺の事情も記されていると思うので、今度、読んでみたい。