本の感想「北海道犬旅サバイバル」服部文祥

本の感想「北海道犬旅サバイバル」服部文祥みすず書房

 かなり変わった冒険記で、著者は2019年10月1日に宗谷岬から徒歩で南を目指した。同行するのは飼い犬できちんとした猟犬の訓練は受けていないが、それなりに猟犬の役割も果たす。分水嶺をできるだけ離れずに主に山道や林道を歩く。現金は所持しない。食糧はコメと調味料のみ。途中にある避難小屋の3か所にはコメなどの食料品をデポしてある。猟銃を携帯して主にシカを獲りながら行程を進む。目指すのは襟裳岬で北海道の分水嶺を縦断することになる。実際には襟裳岬から一部ルートを戻って帯広空港まで完歩した。11月25日に空港に到着した。

 無謀ともいえるサバイバル旅の動機は、「引退セレモニー」ということ。50歳を目前にして、体力や身体機能の衰えを意識するようになった。「自分が本当にやりたいことはなんなんだろう?自分自身の集大成といえるような登山はもうできないかもしれない。今できる、今しかできないことをイメージした時に、鉄砲を肩にイヌと一緒に荒野をどこまでも進んでいく自分の姿だった」と。このようなサバイバル旅が過酷なものであることは想像に難くない。読みながらそのことはよく分かる。あとがきには次のような記述がある。「これまで積み重ねてきたことの集大成ともいえる旅だった。何よりも必要なのは、人里のはずれの森の中で、こっそり夜を過ごし、何食わぬ顔でまた歩き出す図太さかもしれない」と、記したうえでさらにこのような計画を披露してある。「この秋(2023年)に新千歳空港から知床岬まで財布を持たずに仲間と歩く計画がやんわりと進んでいる。全行程で50日ほどの予定である」。ということは今頃はその旅の記録を執筆中なのかもしれない。出版されたら読んでみたい。