本の感想「先生、モモンガがお尻でフクロウを脅しています?」小林朋道

本の感想「先生、モモンガがお尻でフクロウを脅しています?」小林朋道(築地書館

 「先生、シリーズ」の16巻目。書名のモモンガとフクロウの実験も面白いのだが、以前、モモンガの幼獣がフクロウの鳴き声に逃避行動をとることを明らかにした実験があった。モモンガの幼獣には先天的(生後の学習によってではなく)にフクロウの鳴き声に逃避すると分かった。では、成長過程のいつからその行動が出現するのかを調べたのだ。実験装置は以前と同じでT字型の通路を作り、子モモンガはT字の下部から上部方向へ動いていく。分岐に到達すると片側からはフクロウの鳴き声、もう片方からはシジュウカラの鳴き声が聞こえるようにしてある。4頭の子モモンガのうちまず2頭で実験した。最初の実験ではフクロウの鳴き声に回避行動をとらなかった。1週間後は子モモンガはまだ巣箱から出てこない時期で、やはり同じ結果になった。さらに1週間ほど経って3回目の実験をした。この時点では子モモンガたちは巣箱から出て周辺を歩き回るようになっていた。すると、逃避行動が確認できた。それまで実験に参加していない残りの2頭も同様に逃避行動をとった。「子モモンガは、巣穴のなかだけで過ごしている段階までは、フクロウの鳴き声のみに特異的に反応する認知・行動系を発達させず、巣穴から出て、外で行動するようになったとき、その認知系が完成する」という可能性が高いことを実験結果は示している。このことを動物行動学が依って立つ進化理論は次のような予測をする。「認知・行動系は、それが、それぞれの生物種の生存・繁殖に有利に作用するときのみ、エネルギーを消費して(摂取した栄養を消費して)、いつでも作動できるように準備されている。仮に、その認知・行動系があったとしても、生存・繁殖に有利にならないときは、存在しなくなるように進化は起こる」ということだ。大変興味深い。