本の感想「山の本棚」池内紀

「山の本棚」池内紀山と渓谷社

  山岳の月間雑誌「山と渓谷」に連載したエッセイをまとめたもの。2007年1月号から2019年10月号の長期にわたった。池内氏は2019年8月に亡くなっている(享年78)のでご存命のうちはずっとこの連載を書き続出ていたことになる。

 池内氏はNHK FMの「日曜喫茶室」に出演されていて1月に1~2度程度、お話をお聞きしていた。播州弁のゆったりした語り口がとても耳に優しくて、いつまでも聞いていたいと思っていた。その縁があって池内氏のエッセイはよく読んでいたのだが、この連載のことは存じ上げず、この度12年以上になる連載をまとめた同書を読むことができた。書名に「本棚」とあるのは、各エッセイは本の紹介に仕立ててあるからだ。ジャンルは広範であり、池内氏の知見の守備範囲が自ずと伺い知ることができる。前出の番組でのトークを聞きながら、本当の教養人とは池内氏のような人のことを言うのだろうと、いつも感銘を受けていたことを思い出す。

 山岳雑誌と縁があったのは池内氏も山歩きを趣味とされていたからであろう。必ずしもピークハントを目指すわけでなく、山道を好きなように歩くことをよしとされていた。自然に対してがっちりと立ち向かうというのではなくて、慎ましく居させてもらうという姿勢がいかにも池内さんらしい。まだまだお元気でいて欲しい方だったのに、お亡くなりになってもう4年が過ぎようとしている。池内氏の語り口を思い出しながら、ありがたく拝読した。